「〇〇先生に、リハビリの状況を報告しなきゃいけないけど、なんだか話しにくいんだよなぁ…」 「△△看護師さんに、患者さんのことで相談したいけど、いつも忙しそうで、タイミングが掴めない…」 「どうして、あの人はいつもあんな言い方なんだろう…」
理学療法士として働く上で、医師や看護師との連携は、質の高いリハビリテーションを提供するために絶対に欠かせないものですよね。 頭では分かっていても、特定の医師や看護師に対して、苦手意識を感じてしまったり、コミュニケーションがうまくいかないと悩んだりしている方は、実は少なくないのではないでしょうか。
価値観の違い、コミュニケーションスタイルの差、忙しさからくる余裕のなさ…。 様々な理由から、連携がギクシャクしてしまう。 その結果、必要な情報共有が滞ったり、お互いにストレスを感じてしまったり…。 それは、患者さんにとっても、そして私たち自身にとっても、決して良い状況ではありません。
「あの人とは合わないから仕方ない」 「波風立てずに、なるべく関わらないようにしよう」
そんな風に諦めてしまう前に、できることはあります。 実は、円滑な連携は、特別な才能ではなく、「スキル」として身につけ、向上させることができるのです。
この記事では、苦手な医師や看護師との連携に悩むあなたが、その苦手意識を克服し、円滑なコミュニケーションと協力関係を築くための具体的な考え方とテクニックについて、詳しく解説していきます。
少しの意識と工夫で、あなたの悩みは解消され、より良いチーム医療と、ストレスの少ない働きやすい環境が手に入るかもしれません。
「あの先生、ちょっと苦手…」「この看護師さんとは話しにくい…」PTが抱える連携の悩み
チーム医療の重要性は誰もが認識しているはずなのに、なぜか特定の医師や看護師との連携がうまくいかない…。そんな悩ましい状況は、残念ながら多くの医療現場で見られる光景かもしれません。まずは、なぜ私たち理学療法士が、医師や看護師との連携に難しさを感じやすいのか、その背景にある共通の悩みや原因を探ってみましょう。
なぜ連携が難しい?医師・看護師との間に壁が生まれる理由
連携がうまくいかない背景には、様々な要因が考えられます。
- 専門性・役割の違いによる視点のズレ: それぞれの専門分野から患者さんを見ているため、問題の捉え方や優先順位が異なることがあります。(例:医師は医学的治療、看護師はケア、PTは機能回復)
- コミュニケーションスタイルの違い: 論理的・端的な説明を好む医師、共感を重視する看護師、動作分析に基づいた説明をするPTなど、職種によるコミュニケーションの「クセ」の違い。
- ヒエラルキー(上下関係)意識: 未だに残る「医師が一番上」といった意識や、経験年数による上下関係が、対等なコミュニケーションを阻害している場合も。
- 忙しさ・ストレス: お互いに多忙で精神的な余裕がないと、つい言葉がきつくなったり、相手への配慮が欠けたりしがちです。
- 性格や価値観の不一致: これはどの人間関係にも言えることですが、単純に「ウマが合わない」というケースも…。
これらの要因が複雑に絡み合い、「話しにくい」「連携しづらい」という壁が生まれてしまうのです。
コミュニケーション不足が招くリスク(患者さんへの影響、業務の非効率)
連携がうまくいかない、コミュニケーションが不足すると、具体的にどのような問題が起こるのでしょうか?
- 患者さんへの不利益:
- 必要な情報(病状の変化、内服薬の変更、離床の可否など)が伝わらず、リハビリ内容が適切でなくなる、あるいはリスク管理が不十分になる。
- 治療方針や目標が共有されず、各職種のアプローチがバラバラになり、回復が遅れる。
- 患者さん自身が、スタッフ間の連携不足を感じて不安になる。
- 業務の非効率化:
- 同じことを何度も確認したり、情報共有のために余計な手間や時間がかかったりする。
- 連携ミスによるトラブルが発生し、その対応に追われる。
- 職場の雰囲気が悪くなり、スタッフのモチベーションが低下する。
このように、連携不足は、患者さんの安全や回復を脅かすだけでなく、私たち自身の業務負担を増やし、精神的なストレスを高める原因にもなるのです。
「仕方ない」と諦めてない?円滑な連携は"スキル"で改善できる!
「あの先生は、昔からああいう人だから…」 「看護師さんたちはいつも忙しそうだし、話しかけづらいのは仕方ない…」
そんな風に、連携の難しさを「個人の性格」や「職場の文化」のせいにして、諦めてしまっていませんか? 確かに、相手を変えることは難しいかもしれません。
しかし、あなた自身の「関わり方」や「コミュニケーションの取り方」を変えることで、状況を改善できる可能性は十分にあります。 円滑な連携は、生まれ持った才能ではなく、**意識して学び、実践することで向上させられる「スキル」**なのです。
「どうすれば、もっとうまく伝えられるだろう?」 「相手が受け入れやすいように関わるには、どうすればいい?」 そう考え、工夫することが、関係改善への第一歩となります。
目指すは「最強チーム」!連携のゴールは患者さんのために
そもそも、なぜ私たちは連携する必要があるのでしょうか? その究極の目的は、言うまでもなく**「患者さんの回復を最大限にサポートし、より良いアウトカム(結果)を導き出すこと」**です。
医師も、看護師も、理学療法士も、それぞれの専門性を持ち寄り、協力し合うことで、一人では成し遂げられない、より質の高い医療・ケアを提供することができます。 **職種間の壁を取り払い、お互いを尊重し、円滑に連携できるチームは、まさに「最強のチーム」**と言えるでしょう。
苦手な相手との連携も、「患者さんのために」という共通のゴールを常に意識することで、乗り越えるためのモチベーションが生まれるはずです。
関係改善の第一歩!苦手な医師・看護師との「心の壁」を壊す思考法
「あの人、苦手だな…」そう思ってしまうと、無意識のうちに相手との間に「心の壁」を作ってしまいがちです。その壁が、円滑なコミュニケーションをさらに妨げてしまう悪循環に…。まずは、その壁を取り払うための「思考法」、考え方の転換から始めてみませんか?
思考法①:「敵」ではなく「パートナー」。共通の目標(患者さんの回復)を再認識する
苦手な相手に対して、私たちはつい「敵対心」のようなものを持ってしまうことがあります。「また何か言われるんじゃないか…」「どうせ分かってくれない…」と。
しかし、思い出してください。私たちは皆、「患者さんを良くしたい」という共通の目標に向かって働く**「パートナー」**なのです。 職種や立場は違っても、目指すゴールは同じはずです。
相手を「敵」と見なすのではなく、「同じ目標を持つ、専門性の異なるパートナー」と捉え直すこと。 この意識改革が、関係改善の出発点となります。 「この患者さんのために、〇〇先生(看護師さん)と協力して、何ができるだろう?」という視点を持つことが大切です。
思考法②:相手の立場・役割を理解する。それぞれの専門性と忙しさへの想像力
なぜ、あの人はあのような言動をとるのでしょうか? その背景には、相手の立場や役割、抱えている責任やプレッシャーがあるのかもしれません。
- 医師は、最終的な診断や治療方針を決定する責任を負い、常に医学的なリスクを考えているかもしれない。
- 看護師は、24時間体制で患者さんの全身状態を管理し、多くの患者さんのケアや、緊急対応に追われているかもしれない。
それぞれの専門性を尊重し、そして**「きっと、自分と同じように忙しいんだろうな」「何か大変な状況なのかもしれない」**と、相手の状況に対する想像力を持つこと。 これが、一方的な不満や決めつけを防ぎ、相手への理解を深める助けとなります。
思考法③:「苦手」意識のフィルターを外す。客観的に相手の行動を見る努力
一度「苦手だ」と思ってしまうと、相手の言動の全てがネガティブに見えてしまう**「フィルター」**がかかってしまいがちです。 「また嫌味を言われた」「わざと無視された」など、自分の主観で相手の意図を悪く解釈してしまっていませんか?
意識的にそのフィルターを外し、**「相手が『何をしたか』という客観的な事実」と、「それに対して自分が『どう感じたか』という主観的な感情」**を切り離して考える練習をしてみましょう。 「〇〇と言われた(事実)。私はそれで少し悲しい気持ちになった(感情)」というように。
客観的に状況を見ることで、過剰な反応を防ぎ、冷静な対応がしやすくなります。 もしかしたら、相手には全く悪気はなかった、という可能性もあるのですから。
思考法④:まずは自分から変わる!「挨拶+α」の小さな積み重ね
相手が変わるのを待っていても、状況はなかなか変わりません。 関係改善のためには、まず「自分から」行動を起こすことが大切です。
難しく考える必要はありません。日々の小さなコミュニケーションの積み重ねが、相手の心を開くきっかけになります。
- 笑顔で、相手の目を見て、はっきりと挨拶をする。(基本中の基本!)
- すれ違う時に、**「お疲れ様です」**の一言を添える。
- 何かしてもらったら、**「ありがとうございます」「助かりました」**と具体的に感謝を伝える。
- 相手の専門分野について、敬意を持って質問してみる。(「〇〇について、教えていただけますか?」)
こうした**「挨拶+α」**のポジティブな関わりを、根気強く続けていくこと。 最初は反応が薄くても、続けていくうちに、少しずつ相手の態度が変わってくる可能性があります。
これで伝わる!苦手意識を克服する具体的なコミュニケーション術5選
思考法を変え、自分から歩み寄る姿勢ができたら、次は具体的なコミュニケーションの「技術」です。苦手な相手に対しても、的確に情報を伝え、誤解なく意思疎通を図るためには、いくつかの有効なコミュニケーション術があります。ぜひ実践してみてください。
術①:【報告・連絡・相談の基本】「SBAR」を活用し、要点を明確・簡潔に伝える
医師や忙しい看護師への報告・連絡・相談(ホウレンソウ)は、**「要点を」「明確に」「簡潔に」伝えることが鉄則です。 そこでおすすめなのが、医療現場で広く使われている報告フレームワーク「SBAR(エスバー)」**です。
- S (Situation): 状況 – 「〇〇さん(患者名)の件で報告(相談)です。現在〇〇な状況です」
- B (Background): 背景 – 「〇〇の既往があり、△△の目的でリハビリ中です。昨日までは□□でした」
- A (Assessment): 評価 – 「バイタルは〇〇で、××(観察所見)から、□□(PTとしての評価・アセスメント)と考えられます」
- R (Recommendation/Request): 提案・依頼 – 「つきましては、〇〇していただけないでしょうか?(依頼)」「〇〇という対応をしようと思いますが、よろしいでしょうか?(提案・確認)」
この順番で情報を整理して伝えることで、相手は短時間で状況を正確に把握しやすくなり、的確な判断や指示を出しやすくなります。 特に、電話での報告や、緊急性の高い場面で有効です。事前にSBARに沿ってメモを準備しておくと、さらにスムーズです。
術②:【アクティブリスニング】相手の話を「聴く」姿勢と的確な質問力
コミュニケーションは、一方的に話すことではありません。**相手の話を注意深く「聴く」ことも、同じくらい重要です。これを「アクティブリスニング(積極的傾聴)」**と言います。
- 相手の話を遮らない: 最後まで、相手の言葉に耳を傾ける。
- 相槌やうなずき: 「はい」「なるほど」といった相槌や、うなずきで、聞いていることを示す。
- 内容の確認・要約: 「〇〇ということですね?」「つまり、△△だと理解してよろしいでしょうか?」と、相手の言ったことを自分の言葉で言い換え、理解度を確認する。
- 感情への共感: 「大変でしたね」「お忙しいんですね」など、相手の状況や感情に寄り添う言葉を添える。
- 的確な質問: 分からない点や、さらに詳しく知りたい点について、具体的に質問する。(例:「〇〇について、もう少し詳しく教えていただけますか?」)
しっかりと話を聴いてもらえていると感じると、相手は安心し、心を開きやすくなります。 また、的確な質問は、あなたの理解を深めるだけでなく、相手に「真剣に聞いてくれている」という印象を与えます。
術③:【リスペクトを示す】相手の専門性への敬意と感謝の言葉を忘れずに
職種は違えど、医師も看護師も、それぞれの分野で高い専門性を持っています。 その**専門性に対する「リスペクト(敬意)」**を、言葉や態度で示すことは、良好な関係を築く上で非常に大切です。
- 専門的な意見を求める: 「先生(看護師さん)のご専門の立場から、〇〇についてご意見をいただけますでしょうか?」
- 知識を教えてもらう: 「〇〇について、よく分からなかったので、教えていただけると助かります」
- 判断を尊重する: 最終的な判断は医師や看護師にある場合、その判断を尊重する姿勢を示す。(もちろん、安全に関わる場合は意見を述べる必要があります)
- 感謝を具体的に伝える: 「〇〇の情報を教えていただき、ありがとうございました」「いつも的確な指示をいただき、助かっています」
相手の専門性を認め、敬意を払うことで、相手もあなたの専門性を尊重してくれるようになり、対等なパートナーシップが築きやすくなります。
術④:【根拠を示す】「なぜそう考えるか」客観的なデータや観察所見を添える
リハビリテーションに関する提案や報告を行う際には、単に「〇〇だと思います」という主観的な意見だけでなく、「なぜそう考えるのか」という根拠を、客観的な事実に基づいて示すことが重要です。
- 評価結果: 「ROM測定の結果、〇〇関節の可動域が△△度であり、××動作の制限因子と考えられます」
- 観察所見: 「歩行観察にて、〇〇の際に△△のような代償動作が見られました」
- バイタルサイン: 「リハビリ中に血圧が〇〇まで上昇したため、本日は中止としました」
- 参考文献・エビデンス: (可能であれば)「〇〇の文献によると、△△という報告があります」
客観的なデータや観察所見に基づいた説明は、説得力があり、医師や看護師もあなたの評価や判断を信頼しやすくなります。 感情論ではなく、事実に基づいたコミュニケーションを心がけましょう。
術⑤:【共通言語を探る】専門用語を避け、分かりやすい言葉で伝える努力
理学療法士が当たり前に使っている専門用語(例:MMT、ROM、ADL、代償動作、促通など)は、医師や看護師にとっては、必ずしも馴染みのある言葉ではない場合があります。 専門用語を多用すると、話が伝わらないだけでなく、「何を言っているか分からない」「偉そうだ」といったネガティブな印象を与えてしまう可能性もあります。
できるだけ専門用語を避け、誰にでも分かるような、平易で具体的な言葉で説明する努力をしましょう。 もし専門用語を使う必要がある場合は、簡単に補足説明を加えるなどの配慮が必要です。
相手の知識レベルや状況に合わせて、「伝わる言葉」を選ぶ。これも重要なコミュニケーションスキルの一つです。
それでも上手くいかない時は…状況に応じた対処法と相談先
様々な工夫をしても、どうしても連携がうまくいかない、あるいは相手の態度が改善されない…という状況もあるかもしれません。そんな時は、一人で抱え込まず、状況に応じた対処法を考えたり、周りに助けを求めたりすることも大切です。
対処法①:タイミングを見計らう。相手が忙しくない時間帯を選ぶ配慮
相手が非常に忙しそうにしている時や、機嫌が悪そうな時に、無理に話しかけても、良いコミュニケーションは期待できません。 可能であれば、相手の状況を観察し、比較的落ち着いている時間帯や、話しかけやすそうなタイミングを見計らってアプローチしてみましょう。 「今、少しお時間よろしいでしょうか?」と、一言断りを入れる配慮も大切です。
対処法②:第三者を介する。信頼できる先輩や上司に間に入ってもらう
どうしても直接コミュニケーションを取るのが難しい、あるいは話がこじれてしまいそうな場合は、信頼できる第三者に間に入ってもらうのも有効な手段です。
- 経験豊富な先輩PT
- あなたの直属の上司(主任、係長など)
- 看護師長や、他の連携しやすい医師・看護師
などに、状況を説明し、代わりに伝えてもらったり、一緒に話し合いの場に同席してもらったりすることで、客観的な視点が入り、スムーズな解決に繋がる場合があります。
対処法③:記録に残す。連携上の問題点を客観的な事実として記録しておく
もし、特定の相手との連携において、明らかに業務に支障が出ている、あるいは患者さんの安全に関わるような問題が繰り返し発生している場合は、その事実を客観的に記録しておくことも重要です。
- いつ、誰と、どんな状況で、どのような問題が発生したか
- それに対して、あなたはどのように対応したか
- その結果、どうなったか
感情的な記述は避け、具体的な日時や内容、客観的な事実をメモしておきましょう。 これは、後々、上司や担当部署に相談する際に、状況を正確に伝え、問題を具体的に示すための重要な証拠となります。
最終手段:上司や担当部署に正式に相談する。問題を放置しない勇気
個人の努力や、第三者の介入でも状況が改善されず、明らかに患者さんの安全や、チーム全体の業務遂行に悪影響が出ていると判断される場合は、問題を放置せず、正式なルートで上司(リハビリテーション科の科長など)や、病院の担当部署(医療安全管理室、ハラスメント相談窓口など)に相談する勇気も必要です。
記録しておいた客観的な事実をもとに、冷静に状況を報告し、組織としての対応を求めましょう。 問題を個人の人間関係の問題として矮小化せず、**「組織全体の課題」**として捉え、改善を働きかけることが、最終的にはより良い医療環境を作ることにつながります。
まとめ:苦手意識を乗り越えて!円滑な連携で、より良い医療と働きやすい環境を築こう
苦手な医師や看護師との連携。それは、多くの理学療法士が一度は経験するかもしれない、悩ましい問題です。 しかし、「仕方ない」と諦める必要はありません。
まずは、**相手への見方を変え、自分から歩み寄る「思考法」**を身につけること。 そして、**SBARやアクティブリスニングといった具体的な「コミュニケーション術」**を実践すること。 さらに、どうしても上手くいかない場合には、状況に応じた対処法や相談を検討すること。
これらのステップを踏むことで、あなたは苦手意識を克服し、より円滑な連携関係を築くことができるはずです。
円滑な多職種連携は、患者さんにとって最善の医療・ケアを提供するために不可欠であると同時に、あなた自身の仕事の効率を高め、ストレスを軽減し、より働きやすい環境を作り出すことにも繋がります。
コミュニケーションスキルは、練習すれば必ず向上します。 今日から少しずつ意識して、より良いチーム医療の一員として、そして一人のプロフェッショナルとして、さらに輝いていきましょう!