急性期病院で理学療法士として、日々めまぐるしく変化する患者さんの状態と向き合い、リスク管理をしながら離床や早期リハビリに全力を注いできたあなた。 その経験は、間違いなくあなたの大きな力となっているはずです。
しかし、一方でこんな想いを抱えていませんか?
「もっと一人ひとりの患者さんと、じっくり関わりたいな…」 「退院後の生活を見据えた、本当の意味での機能回復をサポートしたい」 「毎日時間に追われるのではなく、もう少し落ち着いた環境で働きたいかも…」
急性期から回復期への転職は、理学療法士のキャリアにおいて、一つの大きな転機となり得ます。 患者さんの「生活再建」というゴールに向けて、より深く、長く関われる回復期リハビリに魅力を感じるのは、とても自然なことです。
でも、同じ「リハビリテーション」という名前がついていても、急性期と回復期では、その役割も、働き方も、求められるスキルも大きく異なります。 その「ギャップ」を理解せずに転職してしまうと、「こんなはずじゃなかった…」と後悔してしまう可能性も。
この記事では、急性期から回復期への転職を考えているあなたが、後悔しない選択をするために知っておくべきギャップと、失敗しないための準備について、詳しく解説していきます。 あなたの新たな挑戦を、心から応援しています!
なぜ急性期から回復期へ?転職を考える理学療法士のホンネ
目まぐるしい急性期の現場で経験を積んできたあなたが、なぜ今、回復期というステージに目を向けているのでしょうか?そこには、きっとあなたなりの理由や想いがあるはずです。多くの理学療法士が回復期への転職を考える背景にある、代表的な「ホンネ」を探ってみましょう。
「もっとじっくり患者さんと向き合いたい」急性期のジレンマ
急性期リハビリの最も重要なミッションは、早期離床と廃用症候群の予防、そして合併症のリスク管理です。限られた入院期間の中で、次々と新しい患者さんを担当し、目まぐるしく状態が変化する中で、迅速かつ的確な判断が求められます。
それは非常にやりがいのある仕事ですが、一方で、 「一人ひとりの患者さんともっと深く関わりたいのに、時間が足りない…」 「状態が安定したら、すぐに次の病棟や病院へ移ってしまう…」 というジレンマを感じることも少なくありません。
回復期では、比較的長い入院期間の中で、一人の患者さんの機能回復から退院支援まで、継続的に関わることができます。 「もっと患者さんの人生に寄り添いたい」という想いが強い人ほど、回復期リハビリに魅力を感じるのでしょう。
退院後の生活を見据えたリハビリへの興味の高まり
急性期では、まず生命を守り、状態を安定させることが最優先。リハビリの目標も、離床や基本的な動作の獲得が中心になりがちです。
しかし、経験を積む中で、 「この患者さん、家に帰ったらどんな生活になるんだろう?」 「退院後の生活を支えるためには、どんな能力が必要なんだろう?」 と、より生活に密着した視点でのリハビリテーションに関心が向くようになることがあります。
回復期リハビリは、まさに「生活再建」がテーマ。 ADL(日常生活動作)の向上はもちろん、家屋環境の調整、社会資源の活用、家族への指導など、退院後のリアルな生活を見据えたアプローチが求められます。 患者さんの「家に帰りたい」という願いを、具体的な形でサポートしていくプロセスに、大きなやりがいを感じるのです。
ワークライフバランス重視へ?働き方への意識の変化
急性期病院は、緊急入院や急変対応など、予測不能な出来事が多く、忙しさやプレッシャーが大きい環境であることも事実です。 日々の業務に追われ、残業が多くなったり、休日も勉強会などで潰れてしまったり…。
「もう少し、心と時間にゆとりのある働き方がしたい」 「プライベートの時間も大切にして、長く仕事を続けたい」
ライフステージの変化(結婚、出産など)や、自身の健康への意識の高まりから、ワークライフバランスを見直したいと考え、比較的スケジュールが安定しやすい回復期への転職を検討するケースも増えています。 もちろん、回復期が楽というわけではありませんが、働き方のリズムや時間の使い方に変化を求める動機は少なくありません。
急性期で培ったスキルを、次のステージで活かしたい想い
急性期で培った、リスク管理能力、全身状態を把握する力、多職種との迅速な連携スキルなどは、理学療法士としての確かな土台です。 その土台があるからこそ、「次のステージに進みたい」と考えるようになる人もいます。
「急性期で学んだ知識や経験を、今度は回復期の患者さんのために活かしたい」 「リスク管理の視点を持ちながら、より積極的なリハビリを展開したい」
急性期での経験は、回復期においても必ず役立ちます。 自分の強みを活かしながら、さらに専門性を広げ、キャリアアップを図りたいという前向きな想いも、回復期への転職を後押しする大きな理由の一つです。
同じリハビリでもこんなに違う!急性期と回復期のギャップ徹底比較
「回復期も同じリハビリでしょ?」もし、そう思っているなら要注意!急性期と回復期では、対象となる患者さんの状態、リハビリの目標、チームでの役割、求められるスキルなど、様々な点で大きな違いがあります。転職後に戸惑わないためにも、具体的なギャップをしっかりと理解しておきましょう。
ギャップ①:目標設定の視点(生命維持・リスク管理 vs ADL向上・在宅復帰)
- 急性期: まずは生命の維持、状態の安定化が最優先。リハビリ目標は、早期離床、廃用症候群予防、合併症リスクの最小化などが中心。**「守りのリハビリ」**の側面が強い。
- 回復期: 病状が安定し、リハビリを集中的に行う時期。目標は、ADL(食事、更衣、整容、排泄、入浴、移動など)の再獲得・向上、そして**「自宅へ退院し、その人らしい生活を送ること」**。より具体的で、生活に直結した目標設定が求められます。
ギャップ②:リハビリ時間の長さと関わりの深さ
- 急性期: 1単位(20分)ごとの介入が基本で、患者さんの状態によっては短時間で切り上げることも。担当患者数が多く、一人ひとりと深く関わる時間は限られがち。
- 回復期: 1日に最大9単位(3時間)のリハビリ提供が可能。一人の患者さんとじっくり向き合い、目標達成に向けて集中的に関わることができます。時間をかけた丁寧な評価や、反復練習、応用動作練習などが可能になります。
ギャップ③:チームアプローチの違い(医師主導 vs 多職種協働)
- 急性期: 医師の指示のもと、医学的管理が優先される場面が多い。カンファレンスも、治療方針の決定が中心となる傾向。
- 回復期: 医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカー、栄養士などが対等な立場で連携し、患者さんの在宅復帰という共通目標に向かう**「多職種協働」**がより重要視されます。情報共有や意見交換が活発に行われ、PTにも積極的な発信が求められます。
ギャップ④:求められる知識・スキルの重点(全身管理 vs 生活機能・社会資源)
- 急性期: 循環・呼吸・代謝など全身状態の把握、リスク管理、モニター類の知識、早期離床の技術などが重要。
- 回復期: ADL評価・分析・アプローチ、高次脳機能障害への対応、家屋評価、福祉用具の選定、家族指導、介護保険などの社会資源に関する知識など、より**「生活」に直結した知識・スキル**の比重が高まります。
ギャップ⑤:患者さん・ご家族との関わり方の変化
- 急性期: 状態が不安定なため、ご家族も不安が強いことが多い。まずは安心感を与え、現状や今後の見通しを分かりやすく説明することが重要。
- 回復期: 退院後の生活が現実味を帯びてくるため、ご家族の介護負担や、家屋環境、経済的な問題など、より具体的な相談を受ける機会が増えます。ご家族への介助指導や、精神的なサポートも重要な役割となります。ソーシャルワーカーなど他職種との連携が鍵になります。
「こんなはずじゃ…」を防ぐ!転職前に確認すべき重要ポイント
回復期リハビリの魅力に惹かれて転職したものの、「思っていたのと違った…」というミスマッチは避けたいですよね。入職後に後悔しないためには、事前に情報収集し、確認しておくべきポイントがいくつかあります。勢いだけで決めず、しっかりと見極めましょう。
ポイント①:その回復期病棟の「役割」と「対象疾患」を理解する
「回復期リハビリテーション病棟」と一口に言っても、病院によってその役割や特徴は様々です。
- どんな疾患の患者さんが多いか?: 脳血管疾患、大腿骨頚部骨折、脊髄損傷、廃用症候群など、対象疾患の割合や特徴を確認しましょう。あなたの経験や興味のある分野と合っているか?
- 地域の回復期リハビリでどんな役割を担っているか?: 高度なリハビリを提供する基幹病院なのか、地域密着型で在宅復帰支援に力を入れているのかなど、病院のポジショニングを理解しましょう。
- 平均在院日数は?在宅復帰率は?: これらの指標から、リハビリの成果や、退院支援への力の入れ具合を推測できます。
ホームページやパンフレットだけでなく、可能であれば見学などを通して、その病棟の「リアル」を知ることが大切です。
ポイント②:リハビリテーション科の「体制」と「雰囲気」を探る
毎日働く場所だからこそ、リハビリテーション科全体の体制や雰囲気は非常に重要です。
- スタッフの人数構成: PT、OT、STの人数や経験年数のバランスは?急性期経験者はどれくらいいる?
- チーム体制: 疾患別チーム?ユニット担当制?どのような体制でリハビリを進めているか?
- 多職種連携の実際: カンファレンスは活発か?他職種との情報共有はスムーズか?
- 職場の雰囲気: スタッフ間のコミュニケーションは良好か?忙しさはどれくらいか?(見学時の印象や、面接での質問で探ってみましょう)
長く働き続けるためには、スキルアップだけでなく、人間関係や職場全体の空気感も大切な要素です。
ポイント③:急性期経験者への「教育・サポート体制」は整っているか?
急性期から回復期への転職は、いわば「畑違い」への挑戦でもあります。新しい環境でスムーズに業務に慣れ、スキルアップしていくためには、教育・サポート体制の有無が鍵となります。
- 新人・中途採用者向けの研修プログラム: 回復期リハビリの基礎知識や、ADL評価、家屋評価などを学べる機会はあるか?
- OJTやプリセプター制度: 先輩スタッフがマンツーマンで指導してくれる体制はあるか?
- 勉強会や資格取得支援: 院内勉強会の頻度や内容は?学会発表や資格取得へのサポートはあるか?
面接時などに、「急性期からの転職者に対して、どのようなサポート体制がありますか?」と具体的に質問してみましょう。教育に力を入れている職場であれば、安心して新しいスタートを切れますね。
ポイント④:給与・休日・福利厚生などの「待遇面」をしっかり確認
やりがいも大切ですが、生活していく上で待遇面は無視できません。転職後に「聞いていた話と違う!」とならないよう、事前にしっかりと確認しましょう。
- 給与: 基本給、手当(資格手当、住宅手当、家族手当など)、賞与、昇給の有無や基準は明確か?
- 休日・休暇: 年間休日数、有給休暇の取得しやすさ、夏季休暇や年末年始休暇の有無。
- 福利厚生: 社会保険完備はもちろん、退職金制度、託児所の有無、研修費補助など。
- 残業時間: 平均的な残業時間はどれくらいか?残業代はきちんと支給されるか?
提示された条件に疑問点があれば、遠慮せずに質問することが大切です。
ポイント⑤:「ここで働きたい」と思えるか?自分の価値観とのマッチング
最終的に大切なのは、「この職場で、自分は活き活きと働けるだろうか?」という、あなた自身の直感や価値観とのマッチングです。
- 病院の理念やリハビリテーション科の方針に共感できるか?
- 自分が大切にしたいこと(例:患者さんとの関わり方、ワークライフバランス、専門性追求など)が実現できそうか?
- 見学や面接を通して感じた、職場の雰囲気やスタッフの人柄は自分に合っているか?
条件面だけでなく、あなたの「心」がポジティブに反応するかどうか。情報収集や自己分析を通して、納得のいく答えを見つけてください。
準備は万端?急性期経験者が回復期でスムーズに活躍するための準備リスト
「よし、回復期への転職を決めた!」その決意を確かな成功につなげるために、最後の準備を怠らないようにしましょう。事前にしっかりと準備をしておくことで、入職後の不安を減らし、スムーズに新しい環境に馴染むことができます。
準備①:回復期リハビリに必要な知識をインプット!(ADL評価、家屋評価、社会資源 etc.)
急性期とは異なる知識やスキルが求められる回復期。転職前に少しでも予習しておくと、入職後のスタートダッシュが楽になります。
- ADL評価: FIM、Barthel Indexなど、回復期でよく用いられる評価法の概要や採点方法を復習・学習する。
- 高次脳機能障害: 注意障害、記憶障害、遂行機能障害など、代表的な症状と評価、アプローチの基本を学ぶ。
- 家屋評価: 安全な在宅生活のための、家屋環境の評価ポイントや住宅改修の基本的な考え方を学ぶ。
- 福祉用具: 車椅子、杖、手すり、自助具など、よく使われる福祉用具の種類や特徴、選定のポイントを知る。
- 社会資源: 介護保険制度の概要、利用できるサービス(デイケア、訪問リハ、ショートステイなど)について基本的な知識を身につける。
関連書籍を読んだり、オンラインセミナーを受講したりするのも良いでしょう。
準備②:急性期での経験を「強み」として棚卸し&言語化する
「急性期の経験しかないから不安…」と思う必要はありません。あなたの急性期での経験は、回復期でも必ず活かせる「強み」です。それを自信を持ってアピールできるように準備しましょう。
- リスク管理能力: 全身状態を把握し、安全にリハビリを進める力。
- 早期介入の経験: 廃用予防や早期離床の重要性を理解している。
- 多職種との連携経験: 迅速な情報共有や連携の必要性を知っている。
- 幅広い疾患の経験: 様々な疾患の病態生理やリハビリの基本を理解している。
これらの経験を、具体的なエピソードを交えながら、「回復期でどのように活かせるか」を説明できるように整理しておきましょう。これは面接対策にもなります。
準備③:情報収集を徹底!見学や説明会でリアルな情報を得る
インターネットや求人票の情報だけでは分からないことはたくさんあります。可能な限り、実際に足を運び、自分の目で見て、耳で聞いて、リアルな情報を集めましょう。
- 病院見学: 職場の雰囲気、設備、スタッフの様子などを直接確認できます。積極的に質問しましょう。
- 転職フェア・説明会: 複数の病院の情報を効率的に収集できます。採用担当者や現場スタッフに直接話を聞けるチャンスです。
- 知人・友人の紹介: もし回復期で働いている知人がいれば、内部の情報を聞いてみるのも有効です。
手間はかかりますが、この一手間が、入職後のミスマッチを防ぐ最も確実な方法の一つです。
準備④:不安解消!キャリアの専門家に相談し、客観的な視点を得る
「本当にこの病院でいいのかな?」「もっと自分に合う職場があるんじゃないか?」 転職活動中は、どうしても不安になったり、迷ったりするものです。そんな時、一人で抱え込まず、客観的なアドバイスをくれる存在がいると心強いですよね。
理学療法士のようなリハビリ専門職の転職に詳しいキャリアアドバイザーは、あなたの経験や希望、そして不安な気持ちを丁寧にヒアリングした上で、プロの視点から的確なアドバイスをしてくれます。
- あなたの市場価値はどれくらいか?
- 希望に合う求人(非公開求人含む)にはどんなものがあるか?
- 面接でアピールすべきポイントは何か?
- 提示された条件は妥当か?
など、自分だけでは判断が難しいことについても相談に乗ってくれます。 転職エージェントなどのキャリアサポートサービスを上手に活用することも、後悔しない転職を実現するための有効な手段です。情報収集の一環として、気軽に相談してみるのも良いでしょう。
まとめ:急性期の経験を翼に、回復期で新たなやりがいを見つけよう
急性期から回復期への転職は、理学療法士としてのキャリアにおいて、新たなステージへの挑戦です。 これまでの急性期での貴重な経験は、決して無駄になることはありません。むしろ、その経験があるからこそ、回復期でより深く、広い視野を持って患者さんに関わることができるはずです。
確かに、急性期と回復期にはギャップがあります。しかし、その違いを事前に理解し、しっかりと準備をすれば、何も恐れることはありません。 大切なのは、あなたが「ここで頑張りたい!」と思える環境を見つけ、自信を持って新しい一歩を踏み出すことです。
回復期リハビリテーションは、患者さんの「家に帰りたい」「元の生活を取り戻したい」という切実な願いに、最も近くで寄り添える、非常にやりがいのある仕事です。 あなたの急性期での経験という翼を広げ、回復期という新たな空で、さらなる輝きを放ってください。
あなたの挑戦が成功し、充実した理学療法士ライフを送れることを、心から応援しています!