「この患者さんへのアプローチ、本当にこれでベストなのかな?」 「最近よく聞く〇〇療法って、うちの患者さんにも効果があるんだろうか?」 「この評価方法、もっと客観的で信頼性の高いものはないのかな?」
理学療法士として、日々の臨床業務に真摯に取り組んでいるあなた。 患者さんと向き合う中で、ふと、そんな**「臨床疑問(クリニカル・クエスチョン)」**が頭をよぎることはありませんか?
その「なぜ?」「どうすればもっと良くできる?」という素朴な疑問こそが、実は、**理学療法の質を向上させ、専門性を深めるための、非常に貴重な「研究の種」**なのです。
「研究なんて、大学の先生や、一部の特別な人がやるものでしょ…」 「忙しい臨床の合間に、研究なんてできるわけがない…」 「何から始めればいいのか、全く見当もつかない…」
そんな風に、研究に対して高いハードルを感じてしまっている方も多いかもしれませんね。 でも、決してそんなことはありません。 理学療法士であれば、誰でも、日常の臨床の中から研究のテーマを見つけ出し、取り組むことができるのです。
この記事では、臨床現場で働く理学療法士のあなたが、日々の「臨床疑問」を具体的な「研究テーマ」へと昇華させ、そして実現可能な「研究計画」を立案するための、基本的なステップと考え方について、分かりやすく解説していきます。
難しく考えず、まずは小さな一歩から。 あなたの探求心が、理学療法の未来を、そして目の前の患者さんの笑顔を、より良いものへと変えていくかもしれません。 一緒に、研究の世界への扉を開いてみませんか?
「これって、本当に効果あるのかな?」日々の臨床から生まれる”研究の種”
毎日、多くの患者さんと接する中で、ふと頭をよぎる「なぜだろう?」「もっと良い方法はないかな?」という疑問。実は、それこそが新しい発見や進歩に繋がる「研究の種」なのです。でも、「研究」と聞くと、なんだか難しそう…と感じてしまいますよね。まずは、なぜ私たち臨床家が研究に取り組むのか、その意義と、研究へのハードルを下げる考え方について見ていきましょう。
理学療法士が研究に取り組む意義とは?(EBPの実践、専門性の向上、業界への貢献)
理学療法士が研究活動に取り組むことには、多くの重要な意義があります。
- EBP(Evidence-Based Practice:根拠に基づいた実践)の推進: 私たちが提供するリハビリテーションは、科学的な根拠に基づいて行われるべきです。研究を通じて新たなエビデンスを創出し、あるいは既存のエビデンスを吟味することで、より質の高い、効果的な治療を提供できるようになります。
- 専門性の向上: 研究プロセスを通じて、特定の分野に関する知識が深まり、論理的思考力や問題解決能力が養われます。これは、理学療法士としての専門性を高め、臨床能力を向上させることに直結します。
- 業界への貢献: 研究成果を発表し、共有することで、理学療法分野全体の知識体系の発展に貢献できます。新しい治療法や評価方法の開発、あるいは既存の理論の検証など、あなたの研究が、多くの理学療法士や患者さんの役に立つ可能性があります。
- 自己成長と達成感: 困難な研究課題に取り組み、それを乗り越えて成果を得る経験は、大きな自己成長と達成感をもたらしてくれます。
研究は、単なる学術的な活動ではなく、日々の臨床をより良くし、私たち自身の専門性を高め、そして理学療法の未来を形作るための、非常に価値のある営みなのです。

「研究なんて、大学の先生がやるもの…」そんな誤解を解き放つ!
「研究」と聞くと、どうしても「大学の研究室で白衣を着た先生が、難しい実験をしている…」といったイメージが先行し、臨床現場で働く私たちには縁遠いもののように感じてしまうかもしれません。
しかし、それは大きな誤解です。 確かに、基礎研究や大規模な臨床研究は、大学や研究機関が中心となって行われることが多いでしょう。 でも、臨床現場にこそ、研究のヒントは溢れています。
- 「この手技、本当に効果があるのかな?」
- 「Aという評価方法とBという評価方法、どっちが信頼できるんだろう?」
- 「うちの病院の〇〇疾患の患者さんの、退院後のADLはどうなっているんだろう?」
こうした、日々の臨床の中で生まれる素朴な疑問や課題を、科学的な手法で検証し、答えを見つけていくこと。それもまた、立派な「研究」なのです。 特別な設備や、高度な統計知識がなくても、身近なテーマから始められる研究はたくさんあります。 「研究は誰にでもできる」という意識を持つことが、第一歩です。
あなたの「なぜ?」が研究の始まり!日常業務に潜むテーマの見つけ方
研究テーマは、決して遠いところにあるわけではありません。 あなたの毎日の臨床業務の中に、たくさんの「研究の種」が隠れています。
- 患者さんとの関わりの中で:
- 「なぜ、この患者さんにはこの治療法が効いて、あの患者さんには効かないんだろう?」
- 「この疾患の患者さんにとって、最適なリハビリの頻度や期間はどのくらいなんだろう?」
- 「患者さんのモチベーションを高めるためには、どんな声かけが効果的なんだろう?」
- 評価や治療手技について:
- 「この新しい評価ツール、本当に信頼できるのかな?うちの患者さんにも使えるかな?」
- 「Aという手技とBという手技、どちらが〇〇に対して効果的なんだろう?」
- チーム医療や業務改善について:
- 「多職種連携をもっとスムーズにするためには、どうすればいいだろう?」
- 「記録業務をもっと効率化できる方法はないかな?」
日頃から、「なぜ?」「どうすればもっと良くなる?」という疑問や好奇心を持ち、それをメモしておく習慣をつけましょう。 その小さな「気づき」の積み重ねが、やがて具体的な研究テーマへと繋がっていきます。
小さな一歩からでOK!研究へのハードルを下げる考え方
「いきなり論文を書いたり、学会発表したりするのはハードルが高い…」 もちろん、最初から完璧を目指す必要はありません。 研究への関わり方は、様々です。
- まずは文献を読むことから: 自分の興味のある分野の先行研究を読んでみる。どんな研究が行われているのか、どんな方法が使われているのかを知る。
- 院内の勉強会や抄読会に参加する: 他のスタッフの研究に触れたり、論文を読む練習をしたりする。
- 先輩の研究を手伝う: データ入力や文献整理など、できる範囲で先輩の研究に関わらせてもらう。
- 小規模な調査から始めてみる: 例えば、担当患者さんのデータを集計して傾向を分析してみる、アンケート調査を実施してみるなど。
大切なのは、「自分にもできるかもしれない」という気持ちを持ち、まずは小さな一歩を踏み出してみることです。 その小さな積み重ねが、やがて大きな成果へと繋がっていくのです。 研究は、特別な才能が必要なものではなく、探求心と継続する力があれば、誰にでも道は開かれています。
キラリと光る!魅力的な研究テーマを設定するための5つの視点
臨床疑問が「研究の種」だとしたら、次はその種を育て、魅力的な「研究テーマ」へと昇華させる作業です。良い研究テーマは、研究の成功を左右する非常に重要な要素。ここでは、あなたの研究テーマがキラリと光るものになるための、5つの重要な視点をご紹介します。
視点①:【新規性】まだ誰も明らかにしていないこと?それとも新たな角度から?
研究の価値を高める上で、**「新しい発見」**があるかどうかは重要なポイントです。
- 全く新しいテーマ: これまで誰も手をつけていない、未解明な領域に挑戦する。
- 既存テーマへの新たな視点: すでに研究されているテーマであっても、異なる対象者、異なる評価方法、異なる介入方法など、新しい角度からアプローチすることで、新たな知見が得られる可能性がある。
- 追試・検証: 海外の研究結果が、日本の臨床現場でも同様に再現できるのかを検証する研究も、意義があります。
「この問いに対する答えは、まだ誰も知らないはずだ!」 そんなオリジナリティのあるテーマは、研究者自身のモチベーションを高め、学術的な貢献度も高くなります。 ただし、あまりにも奇抜すぎたり、現実離れしていたりするテーマは避けるべきです。 先行研究を十分に調査し、その上で「まだ分かっていないこと」を見つけ出す努力が必要です。

視点②:【重要性・臨床的意義】その研究が患者さんや臨床現場にどう役立つ?
どんなに新規性があっても、その研究が誰の役にも立たないとしたら、あまり意味がありません。 あなたの研究テーマは、患者さんや、他の理学療法士、あるいは医療・福祉分野全体にとって、どのような「重要性」や「臨床的意義」を持つのかを明確にしましょう。
- 患者さんのアウトカム向上: その研究成果が、患者さんの機能回復やQOL向上に直接繋がるか?
- 臨床現場の課題解決: 日々の臨床で抱える問題点(例:効果的な治療法がない、評価方法が確立していないなど)の解決に貢献できるか?
- 医療費削減・効率化: より効果的・効率的なリハビリテーション方法を提案することで、医療費の削減や、医療資源の有効活用に繋がるか?
- 理学療法の発展: 理学療法の知識体系を深め、専門性を高めることに貢献できるか?
**「この研究が成功すれば、こんなに良いことがある!」**という、社会的な価値や貢献度を意識することが、研究の意義を高め、多くの人からの共感や協力を得るためにも重要です.
視点③:【実現可能性】倫理的配慮、対象者、期間、予算…本当にできる?
いくら素晴らしいアイデアでも、実際に研究として実施できなければ意味がありません。 研究テーマを設定する際には、その**「実現可能性」**を冷静に検討する必要があります。
- 倫理的配慮: 研究対象者(患者さんなど)の人権や安全は十分に守られるか?インフォームドコンセントは適切に得られるか?(倫理審査委員会の承認は必須)
- 対象者の確保: 必要な数の研究対象者を、予定期間内に集めることができるか?協力してくれる施設や医師はいるか?
- 研究期間: 設定した期間内に、データ収集から分析、まとめまでを終えることができるか?(現実的なスケジュールか?)
- 必要な資源(ヒト・モノ・カネ): 研究に必要なスタッフ、設備、物品、そして予算は確保できる見込みがあるか?
- 技術的な実現性: あなた自身や、共同研究者が、その研究を実施するために必要な知識や技術(評価スキル、統計解析スキルなど)を持っているか?
夢を語るだけでなく、現実的な制約条件を考慮し、「本当にできるのか?」を厳しく見極めることが大切です。 実現不可能な計画は、途中で頓挫してしまうリスクが高まります。
視点④:【興味・関心】あなたが「知りたい!」「探求したい!」と心から思えるか?
研究活動は、時間も労力もかかり、時には困難に直面することもあります。 そんな時、研究を最後までやり遂げるための最も大きな原動力となるのが、あなた自身の「知りたい!」「明らかにしたい!」という強い興味・関心です。
- そのテーマに対して、あなたは心からワクワクしますか?
- その問いの答えを、どうしても知りたいと思いますか?
- 困難があっても、諦めずに探求し続けられるだけの情熱を持てますか?
いくら社会的意義が高くても、実現可能性が高くても、あなた自身がそのテーマに**「魂を込められない」**のであれば、研究を継続するのは難しいでしょう。 自分の内側から湧き出てくるような、純粋な探求心に従ってテーマを選ぶことが、研究を楽しみ、成功させるための秘訣です。
視点⑤:【発展性】その研究から、次にどんな疑問や研究に繋がる?
良い研究テーマは、一つの答えが見つかると、**そこからさらに新たな疑問や、次の研究へと繋がっていく「発展性」**を持っています。
- その研究結果から、どんな新たな臨床的課題が見えてくるか?
- その研究を、さらに深掘りしたり、異なる視点から検証したりすることはできるか?
- その研究成果を、他の分野や対象者に応用することはできないか?
一つの研究で全てが明らかになるわけではありません。 あなたの研究が、次の世代の研究者への「バトン」となり、理学療法分野全体の知識の進歩に貢献していく。 そんな長期的な視点を持つことも、研究テーマの価値を高める上で重要です。
研究の設計図!分かりやすい「研究計画書」作成のための7ステップ
魅力的な研究テーマが決まったら、次はその研究を具体的にどう進めていくのか、その「設計図」となる「研究計画書」を作成します。研究計画書は、研究の目的や方法を明確にし、倫理審査を受けたり、共同研究者や指導者と共通認識を持ったりするために不可欠なものです。ここでは、分かりやすく、かつ説得力のある研究計画書を作成するための基本的な7つのステップをご紹介します。
Step1:【背景と目的】なぜこの研究が必要?何を明らかにしたい?
研究計画書の冒頭で、**「なぜ、この研究を行う必要があるのか(研究の背景)」と、「この研究によって、何を明らかにしたいのか(研究の目的)」**を明確に記述します。
- 背景:
- その研究テーマに関する、これまでの知見(先行研究)や、現状の課題・問題点を簡潔に述べる。
- なぜ、今、この研究に取り組むことが重要なのか、その意義を説明する。
- (例:「高齢者の転倒は依然として大きな問題であり、効果的な予防法の確立が急務である。先行研究では〇〇が報告されているが、△△については未だ不明な点が多い。」)
- 目的:
- この研究で、具体的に何を明らかにしようとしているのかを、簡潔かつ明確に述べる。
- (例:「本研究の目的は、〇〇(介入方法)が高齢者のバランス機能および転倒恐怖感に与える効果を検証することである。」)
背景と目的が明確であれば、研究全体の方向性が定まり、読み手にも研究の重要性が伝わりやすくなります。
Step2:【リサーチクエスチョン/仮説】具体的な問いと、予想される答え
研究目的を、さらに**具体的な「問い」の形にしたものが「リサーチクエスチョン」です。 そして、その問いに対する「予想される答え」が「仮説」**となります。
- リサーチクエスチョン: 研究で検証したい具体的な疑問点を、疑問形(例:「~は…か?」)で記述する。
- (例:「〇〇(介入方法)は、従来の△△(対照群)と比較して、高齢者のバランス機能をより効果的に改善するか?」)
- 仮説: リサーチクエスチョンに対する、研究者の予想(期待される結果)を、肯定的な形で記述する。先行研究や理論に基づいて設定する。
- (例:「〇〇(介入方法)は、従来の△△(対照群)と比較して、高齢者のバランス機能をより効果的に改善するであろう。」)
リサーチクエスチョンと仮説を明確にすることで、研究の焦点が定まり、どのようなデータを収集し、どのように分析すれば良いかが見えてきます。
Step3:【研究デザイン】どんな方法で検証する?(介入研究、観察研究、横断、縦断など)
リサーチクエスチョンに答えるために、どのような「研究デザイン(研究方法の枠組み)」を用いるかを決定します。 研究デザインは、研究の信頼性や妥当性を左右する重要な要素です。
代表的な研究デザインには、以下のようなものがあります。
- 介入研究: 研究者が何らかの介入(治療法、運動プログラムなど)を行い、その効果を検証する。
- ランダム化比較試験(RCT): エビデンスレベルが最も高いとされる。対象者をランダムに介入群と対照群に分け、効果を比較する。
- 準実験研究: ランダム化が困難な場合に用いる。
- 観察研究: 研究者が介入を行わず、対象者の状態や現象を観察・記述し、関連性などを分析する。
- 横断研究: ある一時点でのデータ(例:アンケート調査)を収集し、分析する。
- 縦断研究(コホート研究、症例対照研究など): 時間的な経過を追ってデータを収集し、変化や因果関係などを分析する。
- 質的研究: 数値データではなく、インタビューや観察を通じて得られる言葉や行動などの質的データを分析し、現象の理解を深める。
あなたのリサーチクエスチョンに最も適した、そして倫理的・現実的に実施可能な研究デザインを選択することが重要です。 迷ったら、経験豊富な指導者や統計の専門家に相談しましょう。
Step4:【対象者】誰を対象にする?選択基準と除外基準を明確に
どのような人々を研究の対象とするのかを、具体的に定める必要があります。
- 選択基準: 研究対象として含める条件を明確に記述する。
- (例:「〇〇病院に入院中の65歳以上80歳未満の脳卒中片麻痺患者で、MMSEが24点以上、独歩または杖歩行が可能な者」)
- 除外基準: 研究対象として含めない条件を明確に記述する。
- (例:「重度の心疾患を有する者、過去3ヶ月以内に他のリハビリテーション介入を受けた者、研究への同意が得られない者」)
選択基準と除外基準を明確にすることで、**研究結果の一般化可能性(他の集団にも当てはまるか)**や、**研究の再現性(他の研究者が同じように実施できるか)**を高めることができます。 また、倫理的な観点からも、対象者の選定は慎重に行う必要があります。
Step5:【方法・手順】具体的な介入内容、測定項目、データ収集方法
研究を具体的にどのように進めていくのか、その手順や方法を詳細に記述します。 他の研究者が、あなたの研究計画書を読んだだけで、同じように研究を再現できるくらい具体的に書くのが理想です。
- 介入内容(介入研究の場合):
- 介入群と対照群に、それぞれどのような介入(治療、運動、教育など)を行うのか、その内容、頻度、期間、強度などを具体的に記述する。
- 測定項目(アウトカム評価):
- 研究の目的を達成するために、何を測定するのか?(例:バランス機能、歩行速度、ADL、QOL、疼痛など)
- 使用する評価バッテリーや測定機器、測定方法を具体的に記述する。
- 測定の信頼性・妥当性が確立されている評価方法を選ぶ。
- データ収集方法・手順:
- いつ、どこで、誰が、どのようにデータを収集するのか、その手順を時系列で記述する。
- データ収集用紙や、記録方法なども明確にしておく。
- 統計解析方法(必要な場合):
- 収集したデータを、どのような統計手法を用いて分析するのかを記述する。(統計の専門家のアドバイスを受けるのが望ましい)
手順が具体的であればあるほど、研究の実施がスムーズになり、結果の信頼性も高まります。
Step6:【倫理的配慮】インフォームドコンセント、個人情報保護、ヘルシンキ宣言
人を対象とする研究においては、倫理的な配慮が最も重要です。 研究対象者の人権と安全を守るために、以下の点を必ず明記し、遵守する必要があります。
- インフォームドコンセント(説明と同意):
- 研究の目的、方法、予測される利益と不利益、自由意思による参加と撤回の権利、個人情報の保護などについて、対象者に分かりやすく説明し、文書による同意を得る。
- 個人情報保護:
- 収集したデータは匿名化し、個人が特定できないように厳重に管理する。
- ヘルシンキ宣言等の遵守:
- 人を対象とする医学研究の倫理指針である「ヘルシンキ宣言」や、国内の関連法規・指針を遵守する。
- 倫理審査委員会の承認:
- 研究を開始する前に、所属する施設や、関連する倫理審査委員会に研究計画書を提出し、承認を得る必要があります。これは必須の手続きです。
倫理的な問題は、研究の価値そのものを失わせるだけでなく、法的な問題にも発展しかねません。 細心の注意を払い、適切な手続きを踏みましょう。
Step7:【結果の予測と意義】どんな結果が予想され、それが何を意味するのか
最後に、この研究が成功した場合、どのような結果が予想されるのか、そしてその結果がどのような学術的・臨床的な意義を持つのかを記述します。
- 予測される結果: 仮説に基づいて、どのようなデータが得られると予想されるかを具体的に述べる。
- 結果の解釈と意義:
- もし予想通りの結果が得られた場合、それは何を意味するのか?(例:〇〇療法の有効性が示唆される)
- その結果が、今後の臨床実践や、理学療法分野の発展にどのように貢献できるのか?
- 研究の限界点や、今後の課題についても言及できると良い。
このセクションは、研究の**「着地点」**を示すものであり、研究の価値を改めて強調する役割を果たします。

研究をスムーズに進めるために。知っておきたいコツと注意点
研究計画書が無事に完成し、倫理審査も通過したら、いよいよ研究の実施です!しかし、計画通りにスムーズに進むとは限りません。研究活動を円滑に進め、質の高い成果を得るために、知っておきたいコツと、注意すべき点をお伝えします。
コツ①:まずは文献検索!先行研究を徹底的にレビューする
研究テーマを設定する段階でも重要ですが、研究計画を具体化し、実施していく上でも、**先行研究のレビュー(文献検索と熟読)**は不可欠です。
- PubMed, CINAHL, Cochrane Library, 医中誌Web, J-STAGEなどの文献データベースを活用し、あなたの研究テーマに関連する論文を網羅的に検索しましょう。
- 類似の研究がすでに行われていないか?
- どのような研究デザインや評価方法が用いられているか?
- どのような結果や考察がなされているか?
- あなたの研究の「新規性」や「独自性」は何か?
先行研究を徹底的にレビューすることで、あなたの研究の位置づけが明確になり、研究計画の質を高め、無駄な研究を避けることができます。 **「巨人の肩の上に立つ」**という言葉があるように、先人たちの知恵を借りることが、研究を成功させるための近道です。

コツ②:指導者・メンターを見つける!経験者のアドバイスは貴重
特に初めて研究に取り組む場合、経験豊富な指導者やメンターの存在は非常に心強いものです。
- 職場の先輩・上司: 研究経験のある先輩や、あなたの研究テーマに関心のある上司に相談し、指導をお願いしてみましょう。
- 大学時代の恩師: 卒業後も、恩師に相談に乗ってもらえる場合があります。
- 学会や研修会で出会った専門家: 勇気を出してコンタクトを取り、アドバイスを求めてみるのも良いでしょう。
指導者からは、研究計画のブラッシュアップ、倫理審査の準備、データ解析の方法、論文執筆のコツなど、具体的で実践的なアドバイスを得ることができます。 また、研究に行き詰まった時の精神的な支えにもなってくれるはずです。 遠慮せずに、積極的に助けを求めましょう。
コツ③:仲間と協力する!チームで取り組むメリットと役割分担
研究は、必ずしも一人で行う必要はありません。 同じような関心を持つ仲間とチームを組んで、共同で研究に取り組むことには、多くのメリットがあります。
- 多様な視点・アイデア: 複数の頭で考えることで、より質の高い研究計画や、新たな発見が生まれる可能性があります。
- 作業の分担: データ収集、文献整理、統計解析、論文執筆など、大変な作業を分担することで、一人当たりの負担を軽減できます。
- モチベーション維持: 仲間と励まし合い、切磋琢磨することで、困難な研究活動も乗り越えやすくなります。
- スキルの補完: 自分にないスキル(例:統計解析が得意な人、英語が得意な人など)を持つ仲間と組むことで、研究の幅が広がります。
チームで研究を行う場合は、それぞれの役割分担を明確にし、定期的なミーティングで進捗状況を共有し、円滑なコミュニケーションを心がけることが成功の鍵となります。
注意点①:倫理審査は必須!研究開始前の承認を得る
繰り返しになりますが、人を対象とする研究を行う場合は、必ず所属施設や関連機関の「倫理審査委員会」に研究計画書を提出し、承認を得る必要があります。 これは、研究対象者の人権と安全を守るための、絶対に遵守しなければならないルールです。
倫理審査委員会の承認を得ずに研究を開始したり、データを収集したりすることは、重大な倫理違反となります。 研究計画書が完成したら、速やかに倫理審査の申請手続きを行いましょう。 審査には時間がかかる場合もあるので、スケジュールに余裕を持って準備を進めることが大切です。
注意点②:データ管理は厳重に!正確性と機密保持を徹底
研究で収集したデータは、あなたの研究成果の根幹となる、非常に重要なものです。 その管理は、正確かつ厳重に行う必要があります。
- データの正確性: 測定誤差や記録ミスがないように、細心の注意を払う。可能であれば、ダブルチェックを行う。
- データの整理・保存: 収集したデータは、分かりやすく整理し、紛失や破損がないように、安全な場所にバックアップも含めて保存する。
- 個人情報の保護・機密保持: 研究対象者の個人情報が外部に漏洩しないように、匿名化処理を徹底し、データのアクセス権限を管理するなど、厳重な対策を講じる。
データの取り扱いに関するルールは、倫理審査でも厳しく問われます。 常に高い意識を持って、適切なデータ管理を心がけましょう。
注意点③:焦らず、根気強く!研究は一朝一夕には成らず
研究活動は、計画通りに進まないことや、思うような結果が出ないことも多々あります。 時には、何度もやり直しが必要になったり、長期間にわたる地道な作業が続いたりすることもあるでしょう。
大切なのは、焦らず、諦めずに、根気強く取り組み続けることです。 すぐに成果が出なくても、その過程で得られる知識や経験、そして仲間との繋がりは、必ずあなたの財産となります。
「千里の道も一歩から」 小さな努力を積み重ねていくことが、やがて大きな成果へと繋がるのです。 研究を楽しむくらいの気持ちで、粘り強く挑戦し続けてください。
臨床疑問は宝の山!研究を通じて、理学療法の未来を創造しよう
理学療法士の日々の臨床は、まさに**「研究の種」に満ち溢れた宝の山**です。 あなたが感じる「なぜ?」「どうすれば?」という素朴な疑問は、新たな発見や、より良いリハビリテーションの創造へと繋がる、無限の可能性を秘めています。
研究は、決して一部の特別な人のためだけのものではありません。 あなたの探求心と、患者さんを想う気持ちがあれば、誰でも研究の世界に足を踏み入れることができます。
この記事でご紹介した、
- 魅力的な研究テーマ設定の視点
- 分かりやすい研究計画書作成のステップ
- 研究をスムーズに進めるためのコツと注意点 を参考に、ぜひあなたの「臨床疑問」を「カタチ」にしてみてください。
もちろん、研究活動には困難も伴います。 しかし、その困難を乗り越えて得られる達成感、自己成長、そして何よりも理学療法分野への貢献は、何物にも代えがたい喜びとなるはずです。
もし、研究の進め方やテーマ設定に迷ったら、経験豊富な先輩や指導者、あるいは研究支援を行っている機関に相談してみるのも良いでしょう。 客観的なアドバイスが、あなたの研究活動を力強くサポートしてくれるはずです。