「患者さんの体を良くするためなら、自分の体のことは後回し…」 「多少の腰痛や肩こりは、理学療法士なら当たり前だよね…」
日々、多くの患者さんのために、献身的にリハビリテーションを提供しているあなた。 その情熱と責任感は、本当に素晴らしいものです。
しかし、患者さんの健康をサポートする私たち理学療法士自身が、自分自身の心身の健康をおろそかにしてしまってはいないでしょうか?
実は、理学療法士の仕事は、**「腰痛」をはじめとする様々な「職業病」**のリスクと隣り合わせです。 移乗介助や中腰での治療、長時間の立ち仕事、そして精神的なストレス…。 気づかないうちに、あなたの体や心には、少しずつ負担が蓄積されているかもしれません。
「自分は若いから大丈夫」 「プロなんだから、これくらい平気」
そんな風に過信していると、ある日突然、深刻な痛みや不調に襲われ、仕事が続けられなくなってしまう…なんてことも、決して他人事ではないのです。
この記事では、理学療法士のあなたが知っておくべき代表的な職業病のリスクと、自分の体を守るための具体的なセルフケア方法、そして予防策について、詳しく解説していきます。 さらに、職場全体で職業病を減らすための環境整備の重要性にも触れていきます。
あなたの健康な心と体こそが、患者さんに最高のケアを提供するための、何よりも大切な「資本」です。 自分自身を大切にし、理学療法士として長く、健康に、そして輝き続けるための知識を、一緒に身につけましょう。
理学療法士の体は資本!でも…意外と多い「職業病」のリスクとは?
「理学療法士って、体の専門家だから、自分自身のケアもバッチリなんでしょ?」 一般の方からは、そんな風に思われているかもしれませんね。でも、現実はどうでしょうか? 私たちの仕事には、知らず知らずのうちに心身に負担をかける要因がたくさん潜んでいるのです。まずは、どんな職業病のリスクがあるのか、その実態を見ていきましょう。
「腰痛」はPTの宿命?移乗介助や中腰姿勢がもたらす負担
理学療法士の職業病として、最も代表的で、そして最も多くの方が悩まされているのが**「腰痛」**でしょう。
- 移乗介助: 患者さんをベッドから車椅子へ、あるいはトイレへ移乗させる際など、前かがみになったり、体をひねったりする動作は、腰に大きな負担をかけます。特に、介助量の多い患者さんや、体格の大きな患者さんの場合は、その負担はさらに増大します。
- 中腰姿勢での治療: ベッドサイドでの治療や、床面での運動療法など、中腰や前かがみの姿勢を長時間続けることも、腰痛の大きな原因となります。
- 不適切なボディメカニクス: 無理な体勢で力を入れたり、腰だけで持ち上げようとしたりすると、ぎっくり腰(急性腰痛症)を引き起こすリスクも高まります。
「腰痛は、理学療法士の宿命だ…」と諦めてしまう前に、そのリスクを正しく認識し、対策を講じることが重要です。
肩・首・手首…身体のあちこちに潜む運動器系のトラブル
腰痛だけでなく、理学療法士は身体の様々な部位に運動器系のトラブルを抱えやすい傾向があります。
- 頸肩腕障害(けいけんわんしょうがい):
- 長時間のデスクワーク(カルテ記録など)や、同じ姿勢での治療、精神的なストレスなどから、首のこり、肩こり、腕のしびれ、頭痛などを引き起こすことがあります。
- 胸郭出口症候群なども、この一種と考えられます。
- 腱鞘炎(けんしょうえん)・ばね指:
- 徒手療法やマッサージなど、手指を酷使する業務が多い場合、手首や指の腱鞘炎、あるいは指がカクカクと引っかかる「ばね指」を発症することがあります。
- 膝関節・足関節のトラブル:
- 長時間の立ち仕事や、床からの立ち座り動作の繰り返し、あるいは不適切な靴の使用などから、膝や足首に痛みが生じることがあります。
これらの症状は、軽微なうちは見過ごされがちですが、悪化すると日常生活や仕事に大きな支障をきたす可能性があります。
メンタルも要注意!バーンアウトや共感疲労のリスク
身体的な負担だけでなく、精神的なストレスも、理学療法士の職業病として見逃せません。
- 燃え尽き症候群(バーンアウト): 前回の記事(第46回)でも詳しく触れましたが、仕事への過度な献身やストレスが続くと、意欲を失い、心身ともに疲弊してしまう状態です。
- 共感疲労: 患者さんの痛みや苦しみ、悲しみといったネガティブな感情に共感し続けることで、自分自身も精神的に消耗してしまう状態。特に、終末期の患者さんや、重度の障害を持つ患者さんと関わる場合に起こりやすいと言われます。
- 職場の人間関係ストレス: 上司や同僚、他職種とのコミュニケーションの中で、ストレスを感じることも少なくありません。
これらの精神的な問題は、仕事のパフォーマンス低下だけでなく、うつ病などの精神疾患に繋がるリスクも秘めています。

感染症対策も必須!医療従事者としての自覚と予防
私たちは、日々多くの患者さんと接するため、様々な感染症に曝露されるリスクと隣り合わせです。
- インフルエンザ、ノロウイルスなどの季節性感染症
- 結核、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの院内感染
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
など、目に見えない敵から、患者さんだけでなく、自分自身や家族を守るためにも、標準予防策(スタンダードプリコーション)の徹底、手指衛生、マスク着用、ワクチン接種といった、医療従事者としての基本的な感染対策を、常に高い意識を持って実践する必要があります。
「自分は大丈夫」と思っていませんか?職業病は誰にでも起こりうる
「自分は若いから体力には自信がある」 「ボディメカニクスはちゃんと学んだから大丈夫」 「精神的にタフな方だから、メンタルの問題なんて無縁だ」
そんな風に、**「自分は大丈夫」**と過信していませんか? しかし、職業病は、経験年数や年齢、性別に関わらず、理学療法士であれば誰にでも起こりうるリスクです。 日々の小さな負担やストレスが、気づかないうちに蓄積し、ある日突然、大きな問題として表面化することもあります。
大切なのは、「自分も職業病になる可能性がある」という意識を持ち、早期から予防に取り組むことです。 そして、もし何らかの不調を感じたら、それを軽視せず、早めに対処すること。 それが、理学療法士として長く、健康に働き続けるための秘訣なのです。

PTが特に気をつけたい!代表的な職業病とその原因・症状
理学療法士の仕事には、様々な職業病のリスクが潜んでいますが、中でも特に注意が必要な代表的なものをピックアップし、その原因と主な症状について、もう少し詳しく見ていきましょう。早期発見・早期対処のためにも、正しい知識を身につけておくことが大切です。
①【腰痛・ぎっくり腰】最も多く、深刻化しやすいPTの職業病
- 原因:
- 移乗介助: 患者さんを持ち上げる、支える、体位変換する際の、前かがみ姿勢、ひねり動作、不適切な重心移動。
- 中腰・前屈姿勢での治療: ベッドサイドでのマッサージや関節可動域訓練、床面での運動療法など。
- 長時間の同一姿勢: デスクワーク(カルテ記録など)での不良姿勢。
- 精神的ストレス: ストレスによる筋緊張の亢進が、腰痛を悪化させることも。
- 運動不足・筋力低下: 体幹筋力の低下や柔軟性の不足も、腰痛のリスクを高めます。
- 主な症状:
- 腰部の鈍痛、重だるさ、張り感
- 動作開始時の痛み(例:朝起き上がる時、椅子から立ち上がる時)
- 前かがみや、物を持ち上げる時の激痛(ぎっくり腰)
- 殿部や下肢への放散痛、しびれ(椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の可能性も)
腰痛は、放置すると慢性化しやすく、日常生活や仕事に大きな支障をきたす可能性があります。予防と早期ケアが何よりも重要です。
②【頸肩腕障害】肩こり、首の痛み、腱鞘炎、ばね指など
腰痛に次いで多いのが、首、肩、腕、手指にかけてのトラブルです。
- 原因:
- デスクワーク: 長時間のPC作業による、不良姿勢(猫背、ストレートネック)、眼精疲労。
- 徒手療法: 同じような手の動きの繰り返し、手指への過度な負荷。
- 介助動作: 患者さんを支える際の、肩や腕への持続的な負荷。
- 精神的ストレス: 筋緊張を高め、血行不良を引き起こす。
- 主な症状:
- 肩こり・首のこり、痛み: 頭痛や吐き気を伴うことも。
- 腕のだるさ・しびれ: 頸椎症や胸郭出口症候群の可能性も。
- 腱鞘炎: 手首や指の付け根の痛み、腫れ、動かしにくさ。
- ばね指: 指の曲げ伸ばしの際に、引っかかりや痛みが生じる。
- テニス肘・ゴルフ肘(上腕骨外側上顆炎・内側上顆炎): 肘の外側や内側の痛み。
これらの症状も、悪化すると治療手技に影響が出たり、日常生活にも支障が出たりするため、早めの対処が必要です。
③【膝・足関節のトラブル】長時間の立ち仕事や不適切な動作による負担
意外と見過ごされがちですが、膝や足への負担も少なくありません。
- 原因:
- 長時間の立ち仕事: 体重を支え続けることによる、膝関節や足底への持続的な負荷。
- 床からの立ち座り動作の繰り返し: 特に、小児リハビリや、床面での運動療法を行う場合。
- 不適切な靴の使用: クッション性の悪い靴や、ヒールの高い靴など。
- 体重増加: 関節への負荷を増大させる。
- 主な症状:
- 膝の痛み、腫れ、動かしにくさ(変形性膝関節症の初期症状の可能性も)
- 足底筋膜炎による、かかとや足裏の痛み(特に朝一番や、歩き始め)
- 足関節の捻挫(リハビリ中の不意な動きなどで起こることも)
- 外反母趾などの足部変形
足元は、私たちの体を支える土台です。膝や足のトラブルは、全身のバランスにも影響を与える可能性があります。
④【精神的ストレス・燃え尽き症候群】感情労働と責任感の重圧
身体的な負担だけでなく、精神的な健康問題も、理学療法士にとって深刻な職業病の一つです。
- 原因:
- 感情労働: 患者さんのネガティブな感情(痛み、不安、悲しみなど)に日々接し、共感し、受け止めることによる精神的な消耗。
- 高い責任感: 患者さんの人生を左右する可能性のある仕事であることへのプレッシャー。
- コミュニケーションの難しさ: 患者さんやご家族、多職種との間で、常に円滑なコミュニケーションが求められることによる気疲れ。
- 成果へのプレッシャー: 期待される成果が出せない場合の無力感や自己嫌悪。
- 過重労働・長時間労働: 十分な休息が取れず、ストレスが蓄積する。
- 職場の人間関係: 上司や同僚との関係がうまくいかない場合のストレス。
- 主な症状:
- 意欲低下、無気力、興味の喪失
- イライラ、不安感、気分の落ち込み
- 集中力低下、思考力低下
- 不眠、食欲不振などの身体症状
- アルコールやギャンブルへの依存
- (詳細は第46回記事参照)
心の健康問題は、本人だけでなく、周りのスタッフや患者さんにも影響を与える可能性があります。早期の気づきと、適切なケア、そして必要であれば専門家への相談が重要です。
⑤【感染症】インフルエンザ、ノロウイルス、結核などへの曝露リスク
医療従事者である以上、様々な感染症に感染するリスクは常に伴います。
- 原因:
- 患者さんとの直接的な接触(飛沫感染、接触感染)。
- 汚染された医療器具や環境表面からの感染。
- 院内・施設内での集団発生。
- 代表的な感染症:
- インフルエンザ、ノロウイルス、ロタウイルスなどの季節性・流行性感染症
- 結核
- MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)などの薬剤耐性菌
- 疥癬(かいせん)などの皮膚感染症
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
感染症は、あなた自身の健康を脅かすだけでなく、他の患者さんや家族、同僚へ感染を拡大させてしまうリスクもあります。 標準予防策の徹底は、医療従事者としての最低限の責務です。
自分の体は自分で守る!理学療法士のための簡単セルフケア&予防法【5選】
「職業病のリスクは分かったけど、じゃあどうすればいいの?」 ご安心ください! 日々のちょっとした心がけと、簡単なセルフケアを実践することで、多くの職業病は予防したり、症状を軽減したりすることができます。ここでは、理学療法士のあなたが今日から始められる、5つのセルフケア&予防法をご紹介します。
ケア①:【正しいボディメカニクス】腰痛予防の基本!無理のない動作の習得
腰痛予防の基本中の基本は、**「正しいボディメカニクス」**を習得し、実践することです。 これは、理学療法の学生時代にも学んだはずですが、日々の業務の中で、ついおろそかになっていませんか?
- 移乗介助時:
- 支持基底面を広く取り、重心を低く安定させる。
- 対象者(患者さん)にできるだけ近づく。
- 腰をひねらず、足の運びで方向転換する。
- 持ち上げる際は、膝を曲げ、体幹の大きな筋肉(大殿筋、大腿四頭筋など)を使う意識を持つ。(腰だけで持ち上げない!)
- 必要であれば、二人介助や**福祉用具(スライディングボード、リフターなど)**を積極的に活用する。
- 治療時:
- ベッドの高さを適切に調整し、中腰や前屈姿勢を長時間続けないように工夫する。
- 床面での治療の場合は、膝立ちや座位など、腰への負担が少ない姿勢を選ぶ。
- 自分の身体の軸を意識し、無理のない体勢で力を入れる。
「自分の体は、テコの原理をうまく使う道具だ」という意識を持ち、常に最小限の力で、安全かつ効率的に動くことを心がけましょう。 定期的に、自分の動作を見直す習慣をつけることも大切です。
ケア②:【セルフストレッチ&エクササイズ】仕事の合間や自宅でできる簡単ケア
日々の業務で酷使した筋肉や関節を、ストレッチや簡単なエクササイズでケアすることは、疲労回復と障害予防に非常に効果的です。
- 仕事の合間にできること(5分程度でもOK!):
- 肩回し・首回し: 肩こり・首こりの緩和。
- 腰のストレッチ: 座ったままでもできる、体側屈や回旋運動。
- 手首・指のストレッチ: 腱鞘炎予防。
- 深呼吸: 緊張をほぐし、リラックス効果。
- 自宅でできること:
- 体幹トレーニング(プランク、ドローインなど): 腰痛予防の基本となる、体幹の安定性を高める。
- 股関節・肩甲骨周りのストレッチ: 柔軟性を高め、代償動作を防ぐ。
- 全身のストレッチ: 入浴後など、体が温まっている時に行うと効果的。
- ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動: 体力維持、ストレス解消にも。
理学療法士としての知識を活かして、自分自身の身体の状態に合わせたセルフケアプログラムを実践しましょう。 **「継続は力なり」**です。毎日少しずつでも続けることが大切です。
ケア③:【良質な睡眠と栄養】体の回復力を高める生活習慣
どんなにセルフケアを頑張っても、睡眠不足や栄養バランスの乱れがあっては、体の回復力は低下してしまいます。 健康な体作りの基本は、やはり**「良質な睡眠」と「バランスの取れた食事」**です。
- 睡眠:
- 7時間程度の睡眠時間を確保するよう努める。(個人差はあります)
- 寝る前のスマートフォンやカフェイン摂取は避ける。
- 寝室の環境(温度、湿度、明るさ、音)を整える。
- 食事:
- 主食・主菜・副菜をバランス良く摂る。
- 筋肉や骨の材料となるタンパク質やカルシウムを意識して摂取する。
- 疲労回復に役立つビタミンB群やビタミンCも積極的に。
- 水分補給も忘れずに。
忙しい毎日の中でも、できる限り規則正しい生活習慣を心がけることが、職業病を寄せ付けない、タフな体を作るための土台となります。
ケア④:【ストレスマネジメント】自分に合ったリフレッシュ法を見つける
精神的なストレスは、身体的な不調を引き起こす大きな原因の一つです。 日々の業務で溜まったストレスを、**上手に解消するための「自分なりのリフレッシュ法」**を見つけておくことが重要です。
- 趣味に没頭する: 読書、音楽鑑賞、映画、スポーツ、旅行、ガーデニングなど、あなたが心から楽しめること。
- リラックスできる時間を作る: アロマテラピー、瞑想、ヨガ、温かいお風呂にゆっくり浸かるなど。
- 人と話す: 家族や友人、恋人など、信頼できる人と他愛ないおしゃべりをする。
- 自然に触れる: 公園を散歩したり、山や海に出かけたりする。
- 笑う: お笑い番組を見たり、友人と笑い合ったりする。
大切なのは、仕事のことを完全に忘れられる時間を作り、心から「楽しい」「心地よい」と感じられる活動をすることです。 自分に合ったストレス解消法を複数持っておくと、心のバランスを保ちやすくなります。
ケア⑤:【定期的な健康チェック】早期発見・早期対処のための自己管理
どんなに予防を心がけていても、不調が出てしまうことはあります。 重要なのは、そのサインを早期にキャッチし、悪化する前に適切に対処することです。
- 定期的な健康診断・人間ドック: 必ず受診し、結果をきちんと確認する。
- 身体の小さな変化にも注意を払う: 「いつもと違うな」「ちょっと痛むな」と感じたら、放置せずに早めに医療機関を受診する。
- セルフチェックの習慣: 自分の身体の状態(肩こり、腰の張り、手首の痛みなど)を、定期的に自分でチェックする。
- 専門家への相談: 必要であれば、医師や他の理学療法士、整体師などに、自分の身体のメンテナンスを依頼する。
「これくらい大丈夫だろう」と自己判断せず、専門家の意見を聞き、適切なケアを受けることが、深刻な職業病への進行を防ぐために不可欠です。 **自分の体への「投資」**も、時には必要だと考えましょう。
職場全体で取り組む!職業病を減らすための環境整備とサポート体制
個人のセルフケアだけでは、職業病のリスクを完全になくすことは難しいかもしれません。理学療法士が安全に、そして健康に働き続けるためには、職場全体として、職業病を予防するための環境整備や、スタッフをサポートする体制づくりに取り組むことが不可欠です。
環境①:適切な福祉用具の導入・活用(リフター、スライディングボードなど)
特に腰痛予防において、福祉用具の適切な導入と活用は非常に効果的です。
- リフター(移乗用リフト): 体重の重い患者さんや、全介助に近い患者さんの移乗介助時に使用することで、介助者の身体的負担を大幅に軽減できます。
- スライディングボード・スライディングシート: 患者さんを滑らせて移乗させることで、持ち上げる力を最小限に抑えられます。
- スタンディングリフト: 患者さんの立位・移乗をサポートする機器。
- 高さ調整可能なベッド・治療台: 常に適切な高さで治療やケアを行えるようにする。
これらの福祉用具は、導入コストがかかる場合もありますが、スタッフの腰痛予防、ひいては離職防止に繋がり、長期的には大きなメリットをもたらします。 職場に対して、積極的に導入を働きかけることも重要です。
環境②:人員配置の適正化と業務負担の軽減
慢性的な人手不足や、一人当たりの業務量が過大であることは、身体的・精神的な疲労を蓄積させ、職業病のリスクを高めます。
- 適切な人員配置: 患者さんの数や重症度、業務量に見合った、十分な数の理学療法士を配置する。
- 業務分担の見直し: 特定のスタッフに負担が集中しないように、業務分担を公平に見直す。
- 業務の効率化: 無駄な会議や書類業務を削減し、理学療法士が専門業務に集中できる環境を作る。(第47回記事参照)
- 休憩時間の確保: 忙しい中でも、きちんと休憩時間を取れるように、職場全体で配慮する。
働きやすい労働環境を整備することは、経営者や管理者の重要な責務です。 現場からも、積極的に改善を提案していくことが大切です。
環境③:定期的な研修・勉強会(ボディメカニクス、メンタルヘルスなど)
職業病を予防するための知識や技術を、スタッフ全員が習得し、常にアップデートしていくための教育機会の提供も重要です。
- ボディメカニクス研修: 正しい介助方法や、腰痛予防のための動作について、定期的に研修を行う。実技演習も取り入れる。
- メンタルヘルス研修: ストレスマネジメントの方法、燃え尽き症候群の予防と対策、ハラスメント対策などについて学ぶ機会を設ける。
- 感染対策研修: 標準予防策の徹底、手指衛生、個人防護具の適切な使用方法などについて、定期的に確認・研修する。
- 福祉用具の使用方法研修: 新しい福祉用具を導入した際などに、正しい使い方を全員で習得する。
これらの研修を、単なる座学で終わらせるのではなく、実践的で、日々の業務に活かせる内容にすることがポイントです。

サポート①:産業医や専門家への相談しやすい体制づくり
スタッフが心身の不調を感じた時に、気軽に相談できる窓口や体制を整えておくことも大切です。
- 産業医・保健師との連携: 定期的な面談機会を設けたり、相談しやすい雰囲気を作ったりする。
- 内部相談窓口の設置: ハラスメントやメンタルヘルスに関する相談窓口を、職場内に設置する。
- 外部相談機関(EAPなど)の導入: 従業員が匿名で、専門家(カウンセラーなど)に相談できる外部サービスを導入する。
- 相談することへの心理的ハードルを下げる: 「相談することは悪いことではない」「早めの相談が大切」という意識を、職場全体で共有する。
**「困った時に、一人で抱え込まずに済む」**という安心感が、スタッフの心身の健康を守る上で非常に重要です。
サポート②:体調不良時の休暇取得のしやすさと周囲の理解
どんなに気をつけていても、体調を崩してしまうことはあります。 そんな時、気兼ねなく休暇を取得でき、周りのスタッフがサポートしてくれるような職場環境であれば、無理して出勤して症状を悪化させたり、他のスタッフに感染を広げたりするリスクを減らすことができます。
- 有給休暇の取得奨励: 計画的な有給休暇の取得を促し、休みやすい雰囲気を作る。
- 病気休暇制度の整備: 有給休暇とは別に、体調不良時に利用できる休暇制度を設ける。
- 「お互い様」の精神: 誰かが休んだ時には、残ったスタッフで協力して業務をカバーし合う文化を育む。
**「体調が悪い時は、しっかり休んで回復に専念する」**ということが、当たり前にできる職場環境を目指しましょう。

健康なPTこそが、最高のケアを提供できる!自分を大切に、長く輝き続けよう
理学療法士という仕事は、大きなやりがいと喜びに満ちている一方で、腰痛、肩こり、精神的ストレス、感染症といった、様々な職業病のリスクと常に隣り合わせです。
しかし、これらのリスクは、正しい知識を持ち、適切な予防策を講じ、そして万が一不調を感じた時には早めに対処することで、十分にコントロールすることが可能です。
この記事でご紹介した、
- 代表的な職業病とその原因・症状
- 今日からできる5つのセルフケア&予防法
- 職場全体で取り組むべき環境整備とサポート体制 を参考に、まずはあなた自身の心と体を大切にすることから始めてください。
あなたの健康は、あなただけのものではありません。 あなたが健康で、活き活きと働いていることこそが、患者さんに最高のケアを提供するための、そして理学療法士として長く輝き続けるための、最も重要な基盤なのです。
もし、今の職場環境が、あなたの心身の健康を脅かしていると感じるなら、より安全で、健康的に働ける職場を探すことも、自分を守るための大切な選択肢です。転職エージェントに相談すれば、あなたの健康状態や働き方の希望に配慮した職場探しをサポートしてくれるでしょう。
自分自身を大切にケアし、職業病のリスクを賢く回避しながら、理学療法士としての素晴らしいキャリアを、これからも長く、そして豊かに築いていってください。